地元警察署から電話が入った。そろそろ診療が終わる16:30頃のことだった。
「○○さんと言う方がそちらで診療を受けた事があると遺族の方から聞いたのですが…」
遺族?・・・
私はいやな予感を感じながら、レセコンのデータベースに登録されていないかを検索した。
名前があった。数年もの間根気良く通院し、一昨年で診療が終了された方だった。
私「はい、カルテが残っていますが、○年○月○日生まれ、住所は△△の方ですね?」
警察「そうです。実はその方が雑木林で亡くなってるのが見つかりまして、念のために歯科的所見でご本人様の身元を確認したいのですが、こちらに来ていただけませんか?」
子供と外食に出かける約束をキャンセルし、急遽、警察署の地下にある遺体の安置室へ。
黒塗りの公用車で迎えに来てもらい後部座席に乗る。医院から警察署まで約15分。
その間私は運転する若手警察官と軽い世間話をしながら、持参したレントゲンを見つめ「このロングスパンブリッジはちゃんと機能してくれてただろうか」と、そんなことを考えていた。
若手警官「先生・・・あの・・・」
私「何ですか?」
若手警官「結構・・・進んでおりまして・・・」
検死は初めてではない。何が進んでいるかなど野暮な事は聞かなかった。
私「死後の推定時間はどれくらいですか?」
若手警官「約3週間だそうです」
うわっ、しまった!
ヘアーキャップを持ってくるのを忘れてしまったではないか!この季節であっても死後3週間も経てばかなり腐敗臭が伴うはず。白衣は洗濯で割と簡単に臭いは消えるが髪は最後まで臭いが残るのである。「引き返してくれ」と言おうと思った時はすでに警察署の入り口だった。
強烈な悪臭パンチに堪えながら吹き出てくる大量の蛆虫を掻き分けてレントゲンと照合する。
私「レントゲンと口腔内が一致します」
ベテラン警官「○時△分、身元確認!」
終了後、刑事課のオフィスでソファに座りながらもろもろの書類を書く。
普段は缶コーヒーだがこの日は担当刑事さんが熱いエスプレッソコーヒーを入れてくれた。
人は生まれた瞬間に死を約束させられる。どんな人生を歩んでこようともそれは全員に平等に訪れる。そして生きる事は人間に課せられた義務だ。せっかくだから楽しく生きようw
今回は迅速に身元確認も終了し、ご遺族が引き取ったとのことでほっとした。
最近は行旅死亡人の数が増加の一途を辿っている。この国は本当に豊かなのだろうか・・・
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